住民主体のまちづくり活動「一般社団法人金沢シーサイドあしたタウン」
一般社団法人金沢シーサイドあしたタウン(代表理事:高島哲さん、中西正彦さん)が設立したのは2021年3月のこと。2014年に横浜市立大学の地域連携事業として、金沢センターシーサイド名店会の一角に「並木ラボ」を開設し、地域組織・地元住民が立ち上げた「これからの並木を創る会」や地域企業、行政と連携しながら、並木エリアの持続可能なまちづくりについての議論が始まりました。
並木ラボは住民向けのパソコン教室や子育てサークルなど、さまざまな活動が行われる拠点となり、また地域住民向けのイベントチラシの配架や、LINKAI金沢エリアの求人情報も含む、「地域で暮らす・活動する・働く」ための情報が集積する場にもなりました。
2018年には「横浜金沢シーサイドエリアマネジメント協議会」が発足しました。エリアマネジメントとは、特定の地域を対象として、地域における良好な環境の維持や地域の価値の創出をするために、地域のさまざまな主体が連携してまちづくりを行っていくことで、横浜市立大学と横浜市住宅供給公社が事務局を担いながら、地域住民も地域経営に参画するようになりました。このころ、並木エリアが「あしたタウン」という愛称で呼ばれるように。
一般社団法人を設立以降は、地域住民も理事となり、「子育ち」「福祉」「住まい」「公共スペース」「地域ブランディング」の各プロジェクトを推進。特に地域の内外に金沢シーサイドエリアの魅力を発信し、移住・定住促進と住民の満足度を高めていくことが必要だと、2020年度には市民ライター養成講座を実施、2021年度には一般社団法人の中に「情報コンシェルジュ」という活動を位置付けました。
子育て世代にやさしいまちの魅力を発信したい
情報コンシェルジュの活動名は、一般社団法人金沢シーサイドあしたタウンの理事をはじめとした地域のメンバーで名付けました。2022年1月からの3カ月間で、エリアマネジメントとしてどんな情報を集めるべきか、情報によって地域活動をどう伝えていくのか、活動のあり方そのものを議論していきました。
住民理事の五十嵐千尋さんは2020年度の市民ライター講座の受講生で、地域活動家の二見翼さんをインタビューしたことがきっかけで、「地域活動により楽しく参加できるようになった。その後、並木ラボのチラシを地域の保育園や公共施設に届けることを始めている」と言います。同じく並木で子育て中の村上未歩さんは、「0歳から並木で育ち、このまちが大好きで、並木に戻って子育てをしています。今は環境問題に関心を持って、川や海のプラスチックごみを拾う“くじプラプロジェクト”をやっています」とのこと。地域を歩くなかで、さまざまな素敵な人に出会っています。
二見翼さんは金沢文庫芸術祭や金沢区のご当地かるた「カナかる」に関わり、金沢区を盛り上げるキーマンでもあります。並木で生まれ育ち、現在は金沢文庫で育児中。「幼い頃に経験した並木サマーフェスタの楽しさが印象に残っています。並木の魅力を発信することで、少しずつでも当時の賑わいを取り戻したい」と、富岡並木ふなだまり公園の愛護会活動にも参加。コロナ禍で延期を余儀なくされながらも、2023年3月5日には「ふなだまりecoフェス」を開催し、大成功に導きました。
こうした若い世代が口を揃えて言うのは「並木は海もあって緑が豊か、地域活動が盛んで子育てしやすいエリア」ということ。そこで暮らす、活動する人たちの満足感を、どのように伝えていったらいいのか、そのヒントを住民自らが見つけ出すのが情報コンシェルジュの活動なのです。
「情報コンシェルジュ」の活動で世代を超えてつながる
2022年1月から3月にかけて、NPO法人森ノオトがファシリテーターとなって、情報コンシェルジュの活動をどのように作っていったらいいのか、住民たちの議論をサポートしました。まず「あしたタウンの情報の地図を作ろう!」と呼びかけ、参加メンバーで約1カ月かけて地域内のチラシを200枚以上集めて分析しました。
その結果、「福祉」「多文化共生」「歴史・文化」「高齢福祉」「子育て支援」「施設紹介」「団体紹介」「商店会」「イベント&カルチャー」「講座」「スポーツ」「健康」「求人」「防災・自治会」など、多岐にわたる情報が地域にあることがわかりました。一方で定期的に情報をパトロールして集め、地域でどんな情報が必要で、足りないのかを分析し、必要な人に情報を届けて「つなぐ」役割を担う存在がいないことに気づき、それこそがエリアマネジメント機能として必要ではないか、という話し合いが行われました。
情報コンシェルジュという活動をエリアマネジメントに位置付け、定期的に「情報のパトロール」と「情報のデータ化」「情報の発信」を行うことで、地域の情報の「つなぎ役」になっていこうという意志をみんなで確認しました。
並木地区で長年民生委員として地域福祉に関わってきた篠原淳子さんは、「最初は一体何をするんだろう?と思って集まりましたが、みんなでコトをつくり上げていく面白さを味わいました。エリマネと民生委員で協働できることもありそう」と手応えをつかんだ様子。並木エリアの地区社協の事務局長として、地区社協ニュースの編集を続けてきた山本淳子さんも「若い世代の方々とチームを作る活動に参加できてうれしい。地区社協の活動とエリマネの活動をつなげていきたい」と抱負を語りました。
コロナ禍での議論だったため、途中からZoomやSlackなどのオンラインツールを使って議論を進めました。人生の先輩世代の方も初めて使うツールに四苦八苦しながらも、最後の方には使いこなして積極的に議論に参加し、世代を超えて地域の未来を真剣に語り合いました。
最後に、情報コンシェルジュの活動をパンフレットで表現し、活動を作ることに参加した全員が「一般社団法人金沢シーサイドあしたタウン 情報コンシェルジュ」としての名刺を持って、地域のさまざまな場を情報でつなぐ活動を始めることになりました。2022年3月のことです。
「情報コンシェルジュ」の活動で世代を超えてつながる
2022年度は4月から月1回の定例会議を行い、それぞれ関心のある情報を持ち寄って共有したり、取材活動を行いました。
10月からは再び森ノオトが「編集・校正講座」を行い、取材した記事を情報コンシェルジュ同士で校正し、ウェブサイトに公開するまでのプロセス、フローを作っていきました。
2022年度内に7本の記事が完成しました。その内容もさまざまで、「金沢センターシーサイド名店会長インタビュー」「並木こども哲学を通して育む対話の力」「金沢区とつながるミャンマー(富岡のNPO法人リンクトゥミャンマーの活動紹介)」「地域に寄り添い、地域を護る〜金沢消防署」「まちの全体が野球チーム!(少年少女野球チーム並木フェニックスの紹介)」「海と陸が交わる稀有な環境を守る!富岡並木ふなだまりgionbune公園愛護会」、そして、3月5日に開催された「ecoフェス」を切り口に並木に関わるエコ活動団体を紹介した記事が公開を控えています。いずれも、地域の環境や福祉、防災、子育てに関わる地道な活動にスポットを当てており、住民ならではの確かな目線で、あしたタウンの魅力を内外に伝えています。
篠原さんは、「消防署の取材がきっかけで、民児協での防災講演会を通しての協働ができた。今後は子ども食堂の取材を考えている。シーサイドFMとも連携して、災害時に情報コンシェルジュが何らかの情報を提供できたらいいのでは」と、情報コンシェルジュの活動が地域防災にも直接的につながっていると語りました。二見さんが中心となって動かした「ecoフェス」には村上さんや五十嵐さんも出展者として参加し、その様子を五十嵐さんがレポートして発信するなど、コンシェルジュ同士の相互作用も起こっています。
一般社団法人の理事であり、横浜市立大学の三輪律江教授は「取材活動や記事の裏側にあるのは、地域の人と人がつながるきっかけづくり。記事を通して球を打つと、お互いの理解が深まります。これからも気負わずゆるゆると活動を続けていきたい」と話しました。
金沢シーサイドあしたタウンの魅力は、海や緑、多様な地域活動など、数え上げればきりがないほどありますが、何よりそこに集う人たちのまちの未来を思う気持ちと行動そのものが、最大の価値なのだと思います。ぜひ、HPにアクセスして、情報コンシェルジュたちの心がこもった記事を読んでみてください。きっと、「かなスタ」の市民ライター記事に共通する、金沢区に対する熱い思いを感じるはずです。
写真・文=北原まどか(NPO法人森ノオト)
Information
一般社団法人金沢シーサイドあしたタウン
リアル拠点「並木ラボ」
住所:横浜市金沢区並木1-17 7号棟1階(HACとなり)
TEL:045-353-3119 OPEN:月〜土10:00〜17:00(火曜は貸切利用)