地域の歴史を学ぶことを主眼とした生涯学習サークル
Q:”わ”の会が始まったキッカケは何ですか?
江口さん:1998年の10月に区民の活動を活性化しようと始まったのが発端です。団塊の世代の人たちが定年退職する時期が近づき、リタイアした後の活動の場をつくろうということで、生涯学習という言葉がさかんに喧伝された時期でした。定年退職をした後に、とにかく何かをやりたい人集まれと言うことから始まりました。初めは活動の内容は決まっていませんでしたが、学校の先生や社長さんなどの多種多様な人が8人集まり、その人たちの中から地域の歴史を学びたいという意見が多く出て会の骨子が固まりました。1999年の3月に歴史を学ぶ会として正式に「”わ”の会」が発足しました。
Q:”わ”の会とは変わった名前ですが名前の由来を教えてください。
江口さん:平和でみんなが和やかになるという”和”、対話で話をしていこうという仲間づくりのための”話”、それから、昔の日本の呼称の”倭”、それから人間と人間をつなげる車輪の”輪”、それと感動詞の”わっ!”が「”わ”の会」の名前の由来です。この4つの”和”、”話”、”倭”、”輪”に”わ”が加わって、会のマークになっています。
Q:どのような人たちが参加しているのですか?
江口さん:会員は、現時点で115人です。1999年5月に開始したときは50人でした。最初は、歴史を学ぶということで、県立金沢文庫の学芸員の方にバックアップしていただきました。その後、急激に会員が増えて2003年には100人を超えました。当時は、参加人数が多くなりすぎて、会員は1年限りとして、毎年再募集していました。役員以外は、次の年は入れるか入れないか分からないという状況が続きました。できるだけ多くの区民が参加できるように配慮していました。
鶴岡さん:この方法で何年か続けていましたが、このやり方だと会員が継続的活動が出来ないので、2002 年度に本格運営移行にともない 、12月頃に希望をとって継続したい方は残っていただき、辞めた方を補充していくというやり方に変えました。その頃は、100人近くになっていたと思います。募集は、ホームページと金沢地区センターや区役所に置いてあるチラシで行っていました。地域は限定しないで入りたい人は誰でも入会できますが、金沢区民が圧倒的に多くて9割以上を占めていました。それは現在でも変わりません。金沢区以外では、近隣の栄区や洋光台、港南台、横須賀の鷹取地区などの人たちです。講演やイベントは金沢区でやりますので、遠方の方は、なかなか参加出来ないので足が遠のいてしまうのです。
6つの分科会に分かれて活動
Q:どんな活動をされているのですか?
江口さん:会の活動は2つあります。一つは学習会で年に8回開催しています。その中の5回は我々が直接講師をお願いして実施するものです。あとは、公開歴史講座、企画展に合わせた講座、訪問講座です。通常の学習会でも席があればビジターで受講することは可能ですが、2月に公開歴史講座ということで会員以外でも参加できる一般向けの学習会を開催しています。また、訪問講座と言っていますが、8月に県立金沢文庫の中で、企画展に合わせて、それを解説する講座を開設しています。もう一つは、外に出かけて行って歴史的な遺物を探訪することをやっています。今年度は、猿島の戦争遺跡の見学に行ってきました。元々は、富岡あたりのお寺を巡って住職に講話をしていただくという企画でした。2月の公開歴史講座はテーマを選ぶのが難しいですが、多くの人に来てもらうことができるので、”わ”の会の知名度アップのためにも意義のあるイベントです。
鶴岡さん:学習会では100人近くの人が集まりますが、講演が終わると解散してしまって会員相互の繋がりができません。そこで、2002年の4月から学習会の活動をバックアップして、会員相互のコミュニケーションを深めることを目的に分科会を立ち上げました。現在は、独立採算という形で運営している6つの分科会があります。”わ”の会の会費は年3,000円ですが、分科会ではそれぞれの活動に応じて別に会費を徴収しています。終わったら会食などでコミュニケーションをとっている分科会もあります。分科会は15人〜60人程度で、取りまとめをする代表を中心に独立した活動が行われています。分科会が出来たことで、会員相互の横のつながりが強くなりました。今では、分科会が、”わ”の会の重要な活動の一つになっています。
江口さん:現在活動している分科会は以下のとおりです。
<1.寺社を巡る会>
2002年5月15人の会員で発足しました。当初は毎月会員相互の当番制で「地域の史跡と寺社」をテーマに金沢札所三十四観音霊場を主体に区内の寺社の巡拝からスタートしました。今後も古都鎌倉を中心とした近郊寺社の巡拝を続けると共に、毎年人気の日帰りバス探訪として、「金沢の歴史に因んだ地域・伝説」ツアーを実施していきます。
<2.古文書を読む会>
古文書というと、“読めない”とか“面倒くさい”との理由で断念してしまう人が多いのですが、当時の人たちはそれを読み下していましたので、今の我々にも、習えば読めないことはないという考えで、2002年5月23日に会員9人でスタートしました。現在は、紀州藩の江戸詰め下級武士「酒井伴四郎」の江戸勤務の日記を学習しています。
<3.ふれあいの道歩こう会>
「関東ふれあいの道」を 楽しく一緒に歩くことを目的として 2004年1月 に発足しました。「関東ふれあいの道」とは、環境省の長距離自然歩道構想に基づき関東地方1都6県が整備している総延長1,799kmの自然歩道のことです。2013年に「関東ふれあいの道」全コースを踏破し、独自コースを選定して自然に親しみ歴史を学びながら楽しみながら歩いています。
<4.懐かしの映画を観る会>
「私たちの青春は終戦後、軍国主義の抑圧から解放されたものの、貧しく、映画が唯一の娯楽であり、館内は何時も満員で前の人の肩越しに鑑賞したものでした」という想いを持つ、分科会の前代表が長年に亘って収集・愛蔵してきた数百編のビデオ・ライブラリーなどの中から、50年~60年前に遡る時代から現代に至るまでの、青春の血をたぎらせた数々の東西の映画を選び鑑賞しています。これまで鑑賞したのは『ひまわり』(1970年制作、イタリア)、『蒲田行進曲』(1982年制作、日本)などです。
<5.浮雲俳句会>
五・七・五の17音の日本最短詩を紙1枚と鉛筆一本で自分の生きた証の一行詩を作り、豊かで文化的な生活を営むをモットーに2006年5月に発足しました。活動内容は毎月1回2時間の句会を開催、春または秋に吟行会を実施、成果は“わ”の会のホームページ、会報などに適時発表しています。身構えず、自然体で五・七・五文字のきらめきを求めていく、はじめの一歩の俳句会です。
<6.パソコンを使いこなす会>
パソコン操作でお困りの会員、パソコンをもっと上手に使いたい会員のためにみんなで問題点を解決することを目的として活動を進めています。ワード、エクセル、電子メール、Windows、画像処理ソフトなどの使い方を勉強します。2008年2月12日のプレ分科会で発足し15年が経過しました。
ホームページに会報、出版物も 広報物はすべて手作り
Q:会報を作られているのですね。
江口さん:”わ”の会は、年に4回の会報を発行しています。学習会の報告やアンケート報告、分科会の活動報告と会員からの投稿が掲載されています。分科会は、一口で説明できないさまざまな活動をしています。会員相互のコミュニケーションのツールとして、会報を読むことで、他の分科会の活動の内容が分かるようになっています。
Q:どのように作られているのですか?
鶴岡さん:編集委員会を作って内製しています。現在の編集委員長は、鶴岡さんにお願いしていますが、各分科会に編集委員を置いて記事を集めています。ワードで作り、 区民活動センターのコピー機を使って印刷しています。折り機もソーターもありますので、ここで製本まで出来ます。会報は、ホームページに全てのバックナンバーが収録されていますので、遡って閲覧もできます。
Q:ホームページも充実していますね。
江口さん:ホームページも、自分たちで作っています。ホームページビルダーなどのツールは使わないで、全部HTMLというプログラム言語で組んでいます。”わ”の会は技術系の方が多いので、このような作業はあまり苦になりません。会員の殆どはメールやホームページ閲覧の環境を持っています。メールなどが出来ない人は、115人の中で5人位です。9割以上がネットの環境を持っていますので、インターネットが重要な情報伝達のツールになっています。HP以外には、”わ”の会通信というメールマガジンがありますので、そこに講演会の情報などを流しています。全部、自前でやっているのは、”わ”の会のことが分かっていないと良いものが出来ないと考えたからです。外注するのは簡単ですが技術が分かっているだけでは思い通りのものはできません。
Q:”わ”の会で本も出版されているのですね。
田野実さん:活動の成果物として『かねざわの歴史事典』という書籍を出版しています。2007年に初版を発行して、現在、第3版まで出しています。新しい事実が判明したり、建造物が変わったりした場合に中身を変えていく必要がありますので定期的に改版が必要です。金沢の歴史を掲載するだけでなくインデックス的な機能もあり、詳しく知りたい人のために関連する文献を紹介しています。年表や系図、地名などの付属資料も充実させています。これも、全て内製で、ワードで作って印刷屋さんに渡して印刷製本してもらっています。第1版、新版(第2版)で約2,500部、そして現在、第3版1,000部を刷って金沢区内の本屋さんで販売しています。博物館や図書館にも置いてあります。本屋さんや図書館に行きましたら郷土史のコーナーを覗いてみてください。
”わ”の会をやっていて良かったこと
Q:スタッフとして活動して良かったことは何ですか?
鶴岡さん:63歳で入会して学習会に入っていたのですが、講演だけ聞いて帰ってしまっていましたので、最初は会員相互のつながりがない状態でした。1年ぐらい経って、「懐かしの映画を観る会」という分科会に入り、それから横の繋がりができて知っている人が増えました。現在は「懐かしの映画を観る会」の代表をやっていて、100人を超える人と顔見知りになりました。代表して鑑賞した映画の解説をやることになっているのですが、自分自身で勉強しないと人の前で話が出来ないので、映画について、自分の知識の学び直しのようなことができて勉強になっています。
江口さん:”わ”の会に入ってすぐに運営委員になったのですが、たくさんの人と知り合えるようになったのが良かったですね。講演をお願いした講師の先生方と懇意になり食事会などを通してお付き合いすることができるようになり、視野が広がったということがありました。また、会報やホームページを自分でパソコンを使って作っていますので、パソコンのスキルがアップしたことも良かったと思います。私は「ふれあいの道歩こう会」の代表をやっていますが、山や自然が好きなたくさんの同好の方と知り合いになれたことも”わ”の会に入ったおかげです。
田野実さん:”わ”の会に入ったのはお二人より早いのですが、会社に務めている時は学習会に参加するだけで、退職してから分科会に参加するようになり、仲間とのコミュニケーションが出来るようになりました。しばらくして「かねざわの歴史事典」を作るグループに入り、先輩たちがどのような視点で研究・調査して、本としてまとめていくかを勉強することができました。「かねざわの歴史事典」を作るプロセスで、多くのことを学ぶことが出来て生涯学習の成果が出たと思っています。
これからの”わ”の会について
Q:活動していて困っていることはありますか?
江口さん:若い人がなかなか入ってこないということですね。平均年齢は上昇の一途をたどっています。また、イベントの運営に携わってくれる人が少ないということも課題です。若い人が入ってこないのは、定年が伸びていて、60〜70歳でも仕事している人が多いということがあると思います。”わ”の会で活躍してくれそうな人は現役でも忙しい人が多いんです。
Q:”わ”の会のみなさんは、お元気そうですね。
鶴岡さん:”わ”の会の平均年齢は、77歳くらいですが、普通のその年代の人たちに比べてお元気だと思います。みなさん、心身ともに若いですよ。それが、”わ”の会の活動の一つの成果かもしれませんね。先日も、猿島に行きましたが、ほとんどが後期高齢者ですが、落伍される人もいなくてみなさん、お元気に最後まで探訪を楽しんでいました。
Q:”わ”の会が果たす役割は何だと思いますか?
江口さん:一つは、郷土の歴史を学ぶこと、もう一つは友だちを増やしていくことだと思います。この年齢になると、ほとんどの人は、学校の同窓、会社のOB、町内会の仲間だけの付き合いだと思います。会社をやめた後に、すぐに新しいコミュニティに入って活動するというのは、なかなか難しいと思います。”わ”の会の分科会に入りますと、何十人の人と付き合うことになりますので、歴史や趣味を通して多くの仲間と知り合いになれるのです。この出会いの機会を増やすことが”わ”の会の大きな役割だと思います。まさに、”わ”の会のロゴに入っている「輪」を広げるということなんでしょうね。興味があったけど現役時代は手が出せなかったことを”わ”の会で実践できるというのも役割の一つだと思います。
Q:最後に”わ”の会のアピールをお願いします。
江口さん:これからも、たくさんの人に”わ”の会の輪に入っていただきたいと思います。門戸はいつでも開いています。気軽に足を運んで覗いてみてください。金沢の歴史を学びたい、同好の士と交流を深めたい、史跡などを訪ねたい、自分の経験を活かしたい、企画や運営のお手伝いをしたいなど、何歳になっても自ら学んで実践していくことが出来ます。人生には定年はありません。人生百年の時代、”わ”の会に入って楽しい豊かな生きがいを見つけてみたらいかがでしょうか。
写真・文=廣瀬 隆夫
Information
“わ”の会(横浜市金沢区生涯学習グループ)
http://kanazawa-wanokai.in.coocan.jp/