太鼓の練習を覗いてみました
区役所の足元に、町屋神社があります。江戸時代初期に創建された神社です。夕刻7時過ぎ、その神社に隣接した町屋町内会館から、リズミカルな太鼓の音が響きます。

会館の2階の畳の部屋で、小学1年生から6年生までが祭囃子(まつりばやし)の練習をしていました。時には、中学生や大人も参加します。

3人一組になって太鼓を叩きます。叩くリズムには、それぞれの人に役割があります。真ん中の「締め太鼓」がリードをして、左の「締め太鼓」と右の「長胴太鼓」が、奥行きのあるリズムを奏でます。3つのリズムがハーモニーになり、響きが増幅されます。
小早川先生の素顔
この練習を指導している「街の先生」が、小早川誠さん。町屋で生まれ育った57歳(泥亀在住)の先生。日頃は、世界的なIT会社に勤務するシステムエンジニアです。お囃子の先生に加えて、町屋のソフトボールチームの監督もする、超多忙な方です。
町屋神社のお祭りを行う保存会の会長や町屋の消防団の団長を務めたお父さんの影響で、小早川さんは小さなころからお祭りに親しみ、自然な流れでお囃子太鼓を始めました。それが、小学校1年の時でした。
そして、25歳の時に、小学生向けに太鼓の指導をはじめました。一方、お囃子に大切な篠笛(しのぶえ)には、31歳の時からチャレンジしました。太鼓に比べてはるかに修練を積まなければならないのが篠笛です。町屋では、笛の演奏が数十年にわたり途絶えていました。小早川さんはその笛の復活を目指して奮闘し、地元の竹で笛作りもしました。幸い幼なじみの友人・澤木和幸さん(58)の存在も大きな力でした。当初からズーッと小早川さんと一緒に祭囃子の復活に努めています。
街の伝統文化
金沢区には、歴史的な神社がたくさん点在します。そして、それぞれの神社にお祭りがあります。お祭りは、神様への奉納と同時に、地域の人々に楽しみや活力を生みます。お祭りに欠かせないのが、山車や御神輿と共に、伝統芸能として木遣(きやり)、お囃子、獅子舞など。金沢区には、「金沢区木遣囃子連絡協議会」があり金沢区の郷土文化を伝承・保存しています。協議会には、釜利谷、洲崎、寺前、野島、六浦など、9つの団体が所属しています。その一つが、「町屋囃子保存会」です。今では、無形民俗文化財保護団体として横浜市に認定されています。

伝統を継承する子どもたちと先生
伝統芸能を、愛情をもって真摯に子どもたちに伝える小早川先生。練習場で、子どもたちが先生の指導を素直に聞いて、繰り返し太鼓をたたく姿を見ていると、成長が楽しみです。

太鼓の練習の後に、篠笛にもチャレンジする子がいます。竹筒に穴を開けただけの笛は、澄んだ音を出すだけでも大変だそうです。その笛を進んで練習する小学生の姿は、正に、頼もしい限りです。次の世代に向けて、驕らず、丁寧に、真摯に伝承を伝える小早川先生。また、練習場には、先生を支える良き大人の仲間も集まり、伴奏をしたり、手ほどきをしたりして、次の世代を育てます。

笛を体験する会
2024年11月16日(土)に、「ゆめかもん」が支援する「街の先生」や「登録団体」の紹介が、区役所・公会堂でありました。その一つが、「お祭りの笛を一緒に吹こう」という会でした。先生は、小早川さん。お父さん、お母さん、あるいはお祖母さんと一緒に、子どもたちが参加しました。


先生と人と人の輪

子どもたちが生き生きと練習をする姿を見ると、「町屋囃子保存会」は、小早川先生の温かな指導の下、とても素晴らしいと思いました。さらに、小学生の時から約20年間、お弟子さんともいえる黒沼芳人(30)さんは、子どもたちのお兄さん役です。笛、太鼓のみならず、今ではお祭りの時に、獅子舞も披露します。また、小早川さんと一緒に囃子方を復活させた澤木さんの存在も大きいと思いました。さらに、感心したのは、子どもたちに付き添う父兄の方々の愛情や熱心さです。伝統工芸を伝える先生たちを核に、温かな地域活動が浸透していました。
先生から……
小早川先生からメッセージがありました。「年齢を問わず、ご興味がある方は、お尋ねください」とのこと。特に、篠笛の新メンバーを募集しています。町屋地区以外の方でも、祭囃子にご興味がある方は、小早川先生にご相談を、お薦めします。
写真・文:松浦修
Information
金沢区民センター「ゆめかもん」:金沢区役所2階
TEL:045-788-7803
小早川誠先生
TEL:090-8720-9419
メール:kobayakawa8@yahoo.co.jp