地域の交流や学びの場を提供する区民活動センター「ゆめかもん」

区役所は、各種の行政上の手続きだけでなく、区民を支援するさまざまな役割を果たしています。ゆめかもんは、市民活動や生涯学習を始めたい人々に向けて、地域で人と人が交流する場や、学びの場を提供するコーディネーター部門として、17年前の2007年に発足しました。さまざまなワークショップ、セミナー、イベントを企画したり、それらを実施する支援を行ったりしています。それによって区の人々の知識や知恵やスキルが向上することを目指しています。私たちが、イキイキとした潤いのある生活を楽しめることを応援するために、ゆめかもんが紹介・支援したり協働したりしているのが、地域の「街の先生」と登録団体です。

地域のさまざまなプロフェッショナルが「街の先生」に

ゆめかもんにはこの地域で活動するグループや市民団体が登録されています。また、知識や特技を持つプロや専門家も登録されています。それが、「街の先生」です。登録の内容をゆめかもんにお尋ねすると、街の先生が用意したワークショップや講座、実技練習やさまざまな体験企画を案内してくれます。

(「ゆめかもん」が発行した各種セミナーやイベントの案内の例)

2024年7月現在、登録団体は175件。中には、既に30年近く活動をしている登録団体もあります。ボランテイアの街の先生登録は、184名。私たちの周りには、さまざまなカテゴリーに多彩な先生がいます。

今回は、筆者の年齢に近い先生たちの活動や、素顔を取材しました。

「街の先生」その1.「大道芸のジーコさん」

既に多くの人に知られている街の先生として挙がるのは、「大道芸人のジーコさん」。地域で開催されるさまざまなフェスタや催し会場で、ピエロのスタイルで皿回しやバルーンアートを披露しながら、会場の人々に優しく語り掛け、皆を巻き込んで一緒になって楽しむ芸風を確立した先生です。

(ジーコさんの皿回し Aozora Factory 会場にて・令和5年)

本名は遠見幸蔵さん。白塗りの顔にピエロスタイルでは年齢不詳ですが、現在73歳。素顔は優しいおじいちゃんそのものです。

(ジーコさんの素顔:遠見さん)

普段は、臨海地区の福浦にある工業用機械を製作する会社の電機製造部の部長さんです。会社の第一線で活躍しながら、毎月、土日も祭日も、さらには平日も依頼があれば、ボランティアで大道芸を披露してくださいます。スマホで管理している出演予定表を見せていただくと、びっしりと日時、場所が記載されていました。超多忙な街の先生です。

北海道函館市の出身で、中学の時に家を飛び出し、関西へ。色々な仕事を渡り歩いた後、日産のサッカー部にご縁があり神奈川県に移住。そして結婚をして、22歳の時に現在の会社と巡り合い、入社して50年。今に至ります。

ジーコさんは、なぜ大道芸を始めたのか? きっかけは、孫娘さんの誕生です。「孫が一緒に喜ぶことを何かしよう!」「孫に好かれたい」との思いから、決めたのがパントマイム。51歳の時からのチャレンジでした。中区で大道芸・パントマイムをするグループに加わり、芸を磨きました。並木に在住の遠見さんは、地元、金沢区に街の先生のプログラムがあることを知り、ゆめかもんに登録をしました。

遠見さんは、「自分は芸を極めた芸人じゃない」と謙遜しながら語ります。ところが、道化師姿のジーコさんを拝見していると、「ジーコ流の芸」にあふれています。それは、子どもたちも、大人も巻き込んで楽しませる技です。孫を喜ばせる原点から超えて、地域の人々に楽しさを伝える街の先生なのです。

ジーコさんの芸は、先生と言う「個」から「グループ」に発展しました。ジーコさんの活動に共鳴した人々が、ゆめかもんの応援もあって能見台で立ち上げました。「大道芸、ぼたん座」が登録団体として誕生したのです。「ぼたん座」も独自に活躍をしますが、時には、ジーコさんのアシスタントとしてボランティア活動をしています。

(ジーコさんとぼたん座の活躍)

遠見さんは、いつまでもチャレンジャーです。手話にもチャレンジ。さらに71歳からは、ヒップホップダンスにも挑戦しました。「ちょっと勇気をもって飛び越えて、体当たりですよ」と穏やかに笑う街の先生です。

「街の先生」その2: 郷土史を語る柳下さん

金沢区は、史跡に恵まれています。古くは鎌倉時代からの歴史的な背景を、私たちは学ぶことが出来ます。「金沢区生涯学習”わ”の会」はじめ、「横浜金沢観光協会」など、ゆめかもんに登録された団体を訪ねれば、さまざまな歴史の街、金沢区の情報を得ることができます。

それらの一つに、NPO法人「横濱金澤シティガイド協会」があります。その団体の理事などを務めた柳下五介さん(75歳)は、個人としても街の先生としても、ボランティア活動をされています。専門は「郷土史」です。

(郷土史家:柳下さん「ゆめかもん」コーナーで)

 柳下さんは、市民講座で講師をされていました。また、史跡巡りをしながら、史跡にまつわる伝承を語ってくださいます。

生まれも富岡。そして、現在も富岡在住。柳下さんは、長年、厚木市にある企業のエンジニアでした。定年退職後、先輩の誘いもあり自分の生まれ育った郷土を研究、探索をしてきました。そして、その知見を、史跡めぐりや街歩きを通して、解説しています。

京急富岡駅から徒歩3分の所に、「旧川合玉堂別邸」があります。川合玉堂は、明治から昭和にかけての代表的な日本画家です。残念ながら、邸宅自体は2013年の火災で焼失してしまいましたが、その庭園と雑木林は横浜市が指定名勝としました。金沢区でもその管理を支援しています。その別邸公開日(通常、各月の第一土曜日)に柳下さんが、ガイドとして詰めているとお聞きして、訪ねました。そして、柳下さんの案内で起伏のある庭をゆっくり歩きながら、玉堂の作品のこと、作品の題材になった庭の草花・木々の話、高台から眺めたかつての長浜の海、その当時の人々の生活風景等を語って下さいました。その口調は、静かで淡々としたものでした。

(区役所で横浜金澤シテイガイド協会を紹介する柳下さん)

県内にある江戸時代の東海道の宿場を巡る旅講座もされたそうです。そういった「史跡めぐりのセミナー」も、柳下さん流です。「歩いて見て聞く」を体現する素敵な街の先生なのです。

登録団体その1:オヤジバンドフェスタ実行委員会

2023年秋に第14回目の音楽イベント「金沢BeatBeeバンドフェスタ」が、区の公会堂で開催されました。筆者は、興味津々で取材に出かけました。

(バンドフェスタのポスター)

10組のバンドグループが、熱く競演します。音楽音痴の筆者ですが、その迫力、プロの演奏、演出、ヴォーカルに圧倒されてすごく感動しました。NPOでこれだけのイベントを実行する団体は、どのような人々だろうかと思い、その実行委員長、早川大二さん(67歳、長浜在住)を訪ねました。

(バンドフェスタ開幕の挨拶をする実行委員長の早川さん)

キャッチコピーは、「あなたがスーパーヒーロー」。企画立案・デザイン、出演グループの選定交渉、広報活動、チケット販売、会場設営、予算管理などなど膨大な作業をこなし実施した早川さん。

(バンドフェスタ開幕直前に金沢シーサイドFMのインタヴューを受ける早川さん)

初対面は、お茶を飲みながら。実に軽妙でカジュアル、しかし何事にも熱い思いを抱いている人だと感じました。

音楽イベントをプロデュースする根っこには、ご自身のロックへの情熱がありました。ギターボーカリストとして、ロックバンド「WHOTA(フータ)」で約半世紀にわたり活躍しています。一方、本業は、中小企業経営者を対象にしたマーケテイング・販促・ブランデイング・顧客構築のコンサルタントです。単なる経営の理念を語るのではなく、企業経営者と一緒になって戦略を実践する人です。そのカギとなるのが、「企業と企業」をつなぐこと、「人と人」とをつなぐこと。同様の想いが、「バンドフェスタ」にもあふれています。音楽を愛する人々に、そして自分が住む地域の人々に「元気とワクワク」を届けたいという思いが原動力になっています。

(地域の人々にワクワクを届けたいと語る早川さん)

表現は軽妙ですが、内には「熱」を持った人です。しかし、バンドフェスタに関して、ふと、悩みも打ち明けてくれました。それは、ボランティアとして協力して下さる方々の高齢化と、フェスタを実施するための資金。一言「厳しいね」とつぶやいていました。区民の中高年層の経験と活力を生かしながら、次の世代につながる音楽イベントを、区民として応援したいものですね。

「登録団体」その2:サラリーマンOB会 金沢‘95

登録団体には、実際にどのような活動があるのか知りたいと思っている時に、ゆめかもんが登録団体の一端を紹介するミニ体験講座を開催していることを知りました。2023年の夏には、29にのぼる各種の体験講座が開かれました。そのうちの一つが、「地球温暖化と再生可能エネルギー」講座。この講座を開催したのが「サラリーマンOB会 金沢’95」でした。

「サラリーマンOB会」と言う会の名称も気になり、また、現代社会が直面する課題にも興味を惹かれて、筆者も受講してみました。講師は、この会の会員である牧野宏さん(釜利谷地区在住)。それは、素晴らしい講義でした。過去、現在、未来予測データを分かりやすく整理して、これからの「再生エネルギー」の可能性も解説してくださいました。ミニ体験講座とのことでしたが、多くの高齢者が出席して、熱心に聞き入っていました。

(サラリーマンOB会で講師を務められた、会員の牧野さん)

講座終了後、牧野さんにこの「OB会」のこと、牧野さんご自身のことをお聞きしました。会の基本は、「学歴や職歴は問わない」とのことでしたが、中身の濃い講義をされた牧野さんの経歴が気になり前職をお聞きすると、国際的なIT・エンターテイメント企業で、社会生活をも変革する研究開発を担当されていました。

そして、「OB会」についてもっと知りたいと思い、この会のリーダーである長瀬悠一さん(会長:瀬戸在住)と鈴木晶久さん(事務局長:泥亀在住)をお訪ねしました。

(会のリーダー、長瀬悠一会長)

(会の運営統括、鈴木晶久事務局長)

 

まず、気になった会の名称についてお聞きしました。それは、そのまま、「サラリーマン現役生活を卒業した人達の集い」、つまり「サラリーマンOB会」です。また、「金沢‘95」は、1995年に金沢区役所が主催で、サラリーマンOBを対象にした5回にわたる「郷土の歴史」に関する講習会が開かれたことに由来しています。その講習会の翌年に、参加者が発起人になりNPOとしてこの団体が誕生しました。現在会員は、100名弱。70歳代80歳代のOBが活発に交流している現状から、次の時代を見つめて、「もう少し若手(60代)が増えて欲しい」とのことでした。

会のメンバーは、サラリーマン時代には仕事を通して人のつながりがあった「組織人」でした。しかし、仕事を外れた時から「組織人」ではなくなります。そこで、新たな人のつながりを地域、近隣の仲間に目を向けた「地域人」となることに意義を見出しました。サラリーマンを卒業した今、その人生を「相互研鑽、親睦、交流の場づくり」を目指して有意義な人生を過ごすことを願った「OB会」なのです。

かつてサラリーマンであった筆者もこの会の理念や生活を楽しむメンバーの魅力に引きつけられ、会員になりました。お陰様で、講演会、バス旅行、落語鑑賞会などさまざまな集いに参加させていただき、生活に潤いが増えました。昨年は、秋の昇仙峡へ貸し切りバス旅行がありました。フルに1日、和気あいあいの交流会でした。

(山梨県昇仙峡にバス旅行の交流会)

金沢区の住民も、人口構成は、4人に1人が高齢者になっていると言われています。その高齢者同士が、人と人とのつながりを大切にして、潤いのある生活が出来る一助となるこの会は、正にゆめかもんが応援する趣旨に合った登録団体ですね。

取材を終えて

取材を通して、筆者と同じ世代の「地域人」が、生き生きと潤いのある生活する姿を拝見しました。それをバックアップするゆめかもんに、感謝でいっぱいです。今回は、高齢者を中心にした取材でしたが、活躍する若い世代や女性の街の先生や登録団体も、いつかご紹介したいと思いました。潤いと楽しみで、私たちの生活を豊かにしてくれることを実感した取材でした。

写真・文:松浦修

Information

金沢区民活動センター“ゆめかもん”

●開館時間
午前8時45分から午後5時まで

●閉館日
毎月第1日曜日
年末年始(12月29日~1月3日)
国民の祝日(祝日が土曜・日曜日と重なる場合は除く)
※区庁舎の設備点検等により臨時に休館する場合があります。

所在地: 横浜市金沢区泥亀2-9-1 金沢区役所2階
TEL:045-788-7803 FAX 045-789-2147

Email: kz-kumincenter@city.yokohama.jp

https://www.city.yokohama.lg.jp/kanazawa/kurashi/kyodo_manabi/kyodo_shien/center/10shougai.html