子どもデザイン教室の役割

6歳の男の子の母親の「絵の描き方を教えてほしい」という言葉がきっかけで始めてから52年もの間、子どもたちと向き合ってきたデザイン教室「ASABA ART SQUARE(アサバアートスクエア)」。その間子どもを取り巻く環境は刻々と変わり、忙しすぎる子どもたちが想像力を失っていく姿に不安を覚えたと浅葉さんはいいます。

時には子どもの気持ちを親身に聞き、学校から遠ざかる子どもを毎日朝日を見に連れ出したり、家に帰りたくないという子どもからじっくり話を聞いたり、さまざまな子どもに寄り添ってきた浅葉さん。

もちろん自身も3人のお子さんを育てる中、先が見えなくなったこともあるといいます。そんな時心の支えになったのは、やはり教室の子どもたち。子どもの中にある大切な芽を育てていく、という役割があったから、教室を続けることができたと浅葉さんは話します。

ASABA Art School (子どもデザイン教室)の様子
ASABA Art School (子どもデザイン教室)の様子

先日は、「ただいま!」とデザイン教室で育った子が自分の子どもを連れて遊びに来てくれたと嬉しそうに話す浅葉さん。成人しても就職の相談に訪れたり、夢が叶った報告をしに来てくれたりと、浅葉さんと子どもたちの関係はとこしえです。

「『できない』って言ったらほっぺたに✕かくよ!」。これは教室での約束事です。「本当はできるのに『できない』っていうと、できることまでできなくなってしまうのよ」。現在、教室の約束事は、共にアサバアートスクエアを主宰する息子の弾さんに受け継がれています。

アーティストや旅人との交流を通した“生きた体験”

アサバアートスクエアでは、開催される展示会やイベントでアーティストとの出会いも日常的です。また、有機農家やオーガニックカフェ等がホストになり、金銭のやりとりなしで、「労働力」と「食事とベッド」を交換することができる会員制の仕組み「WWOOF(ウーフ)」に登録しています。コロナ禍前はアメリカ、台湾、インドなど世界から“ウーファー”が訪れ、カフェや教室のお手伝いを通して子どもたちとの交流がありました。

また浅葉さんは、世界の子どもたちがどんな暮らしをしているか実際に見てみたいとヨーロッパをはじめアメリカ、メキシコ、インドを旅してきました。本当の豊かさ、一番大切なことは、感動する心や思いやりではないだろうかと考えた浅葉さん。異国での体験を子どもたちにも味わってもらいたいと、何度も訪れていたエジプトへ1989年に子どもたちを連れて行きました。

初めて見る異国の文化に不安な表情を浮かべていた子どもたちでしたが、2日もすると目の輝きがびっくりするほど変わりました。「引っ込み思案だった子がエジプトの子どもたちとの交流で自信を持った体験は忘れられません。そんな生きた体験、出会いを通して子どもたち一人ひとりの中に眠っている可能性が引きだされていく姿を見るのは最高の喜びです」と浅葉さんは語ります。

今伝えたい先住民の教え

デザイン教室を開いてからある時、茶飲み仲間3人で「金沢区には自然も歴史もあるけどアートがない。それなら創ろう!」と、1999年から続く金沢文庫芸術祭を始めました。毎年子どもたちが創造力豊かに創り上げる衣装を着てパレードする姿は圧巻です。ここからアートが人をつなぐ発信地としての活動が広がりました。

金沢文庫芸術祭の写真
金沢文庫芸術祭

2021年9月26日から8日間は、 第3回目となるアイヌアートフェスティバルが開催されました。遠方からもたくさんの方が足を運び、26日に行われた「こどもアイヌフェスティバル」では版画家の結城幸司さんからアイヌ民族文化を学び、縄文研究科である平田篤史さんから黒曜石のナイフ作りを学ぶ子どもたちの姿がありました。

親子とスタッフの「こどもアイヌフェスティバル」の様子
「こどもアイヌフェスティバル」の様子

なぜ今アイヌアートフェスティバルを開催するのか、という問いに浅葉和子さんは「アイヌの人々の中に、日本人が失った自然との共存の精神文化が今もなお生き続けているからです」と語りました。

浅葉和子さんが語って言いる写真
浅葉和子さん

金沢文庫の称名寺には、縄文時代の貝塚「称名寺貝塚」が眠っています。横浜市歴史博物館(https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/kikakuten/2015/kaizukatojidai/)によると、「発掘調査ではイルカや魚の骨が大量に出土し、シカの角で作った銛や釣針などの漁具も見つかりました。この地で暮らした縄文人は海にこぎ出してイルカや魚をとり、遠く離れた土地と行き来していたのです」とあります。

アサバアートスクエアでも改修工事の際に称名寺貝塚が発掘され、工事が一時中断したといいます。私たちよりもはるか前にこの場所で大地と繋がり心豊かに暮らしていた人々のように、今こそ私たちは日本の先住民族アイヌから学ぶものがあるのではないでしょうか。

本屋でふと手にしたアメリカインディアンに伝わる『虹の戦士』(北山耕平・著、太田出版)の中に「地球が病んで動物たちが姿を消しはじめるとき まさにそのとき みんなを救うために虹の戦士が現れる」という一文を目にし、「そうだ、私たちが虹の戦士になればいいのだ」と2008年に金沢文庫芸術祭に「先住民族広場」を設けました。各国の先住民族に声をかけ、自然とともに生きる知恵を写真や音楽を通して知るきっかけを作ってきた意味がここにきてやっとつながりました。

“地球の未来は子どもの未来”これからの時代を生きる子どもたちへ

今日も子どもたちの元気な声が飛び交っているアサバアートスクエア。「自分が楽しい、嬉しいと思うことに出会うこと、私たちはこの自然に生かされていること、今生きていることに感謝することを忘れないで」。力強く浅葉さんは語りました。

大人も子どもも忙しいスケジュールに振り回されていた私たちは、コロナ禍で立ち止まることを余儀なくされました。不意に訪れた時間で、私たちは家族のこと、仕事の仕方から地球環境を考える学びの時間を与えられたのでしょう。“天から役目なしに降ろされたものはひとつもない”、このアイヌ民族のことわざは私の心に深く響きました。人と人、人と自然が調和される未来を、私たち大人が今こそ学ぶべきことなのではないでしょうか。

人と人をつなぐ「虹の戦士」の門を一度通り抜けてみてください。あなたが本来持つ自分らしさに気付かされるかもしれません。

夕暮れの虹の戦士の門
虹の戦士の門

写真・文=長嶺 雅子

ASABA ART SQUARE
住所 神奈川県横浜市金沢区金沢205
電話 045-783-9705
アサバアートスクエア http://asabaart.com/ https://www.facebook.com/AsabaArtSquare/
金沢文庫芸術祭  https://www.bunko-art.org/

この記事は、取材の仕方や文章の書き方、写真撮影のコツを学ぶ「金沢区の魅力発見・発信講座」の受講者が、区民目線で実際に取材・執筆したものです。