木の葉も色づき秋を感じられるようになってきた11月中旬、関ヶ谷市民の森で、西金沢学園小学部(金沢区釜利谷西)の小学2年生を対象とした竹細工授業が行われました。竹細工を教えるのは、関ヶ谷市民の森の維持管理を担う愛護会の皆さん。子どもたちは、森の竹林から間伐した竹を使って、おもちゃ作りに挑戦しました。

愛護会では2016年から毎年協力して授業を実施しています。はじめに愛護会メンバーが、関ヶ谷市民の森の紹介としてホタルの飛翔地について話すと、「見たことある!」という声が子どもたちのあちこちから上がりました。竹細工に使う工具の取り扱いについての注意を聞いた後、竹ぽっくり、どんぐりころころ、セミ鳴らしの3種類のおもちゃづくりが始まりました。

「竹の中は空洞じゃなくて節(ふし)がある。上に伸びていくにつれて細くなっているよ」と竹の特徴を教える話す愛護会メンバー

おもちゃの材料を手に、説明にじっと耳を傾けながら作り上げていき、1時間足らずでおもちゃが完成、子どもたちは早速作ったおもちゃで遊び始めました。竹ぽっくりは、愛護会メンバーが森にある竹林を間伐して、ノコギリで一つひとつ小さく切って用意したもの。左右に若干高さの違いがあるので乗りこなすのはなかなか難しそうと思いましたが、初挑戦の子もすぐに乗りこなしていました。

「セミ鳴らし」は竹筒を振り回して音を出すおもちゃ。カラーテープや銀紙を使って竹筒をセミのように装飾して、遠心力を利用して振り回すとギーギーという音が鳴ります。広い森なので子どもたちは気兼ねなくおもちゃを振り回して、「鳴ったー!」と歓声を上げて熱中して遊び、それを微笑ましく見守る愛護会メンバーの姿が印象的でした。

竹ぽっくりに初挑戦の子もすぐに乗りこなしていました
振り回すとギーギーとセミのような音を出して遊ぶおもちゃ「セミ鳴らし」

余った時間を使って、ノコギリで竹を切って花瓶をつくる子も。ノコギリで切ってみたい子が列をなして順番に花瓶づくりにいそしみました。子どもたちの危なっかしい手つきに思わず、もうちょっとこうしたら?と私が口を出してしまったのですが、愛護会メンバーはじっと見守って必要な時のみ声をかけていることに気が付き、子どもの力を信じて見守る姿勢を見習わなきゃと感じた瞬間でした。ノコギリなどの工具を使うことは家庭でなかなかできない経験で、真剣な眼差しで一心不乱に竹を切り続ける子どもたちを見て、こういった経験は地域の協力がないとなかなかできない貴重な機会だと感じました。 

関ヶ谷市民の森愛護会とは?

子どもたちにおもちゃづくりの竹細工授業を行っていた関ヶ谷市民の森愛護会は、どんな活動をしているのでしょうか?関ヶ谷市民の森は私もこれまでも何度か散歩で訪れた場所でしたが、どんな方たちが市民の森の保全をされているのか気になり、愛護会の会長を務める上原隆一さんにお話を伺いました。

釜利谷南小学校の子どもたちが作成したカラフルな看板が森の入口

関ケ谷市民の森は、関東学院大学金沢文庫キャンパスと閑静な住宅街に隣接した、2.2ヘクタールほどの小さな森です。春は梅に桜、初夏はホタル、秋には紅葉した木々と、四季折々の自然の姿を見に散歩している人を見かけます。

2003年に開園し、横浜市からの委託を受けて、愛護会が市民の森の維持管理を行っています。そのほか、ホタル生息地、炭焼き、梅林、竹林、果樹園、畑などもあり、上原さんは「それぞれ場所を分けてゾーニング管理が行われているのが、関ヶ谷市民の森の特徴」だと教えてくれました。愛護会では月2回、それぞれの区域での活動計画に沿って活動しています。訪れた日は朝8時から、30人ほどのメンバーが集まって倒木の整理や草刈りを始めていました。

水路には大きなヘビ、たい肥置き場にはカブトムシの幼虫がいるそう。住宅地に隣接したこの森にもまだ豊かな生態系が残されていることを知りました(一番右が、愛護会会長の上原隆一さん)(撮影:中川ちあき)

愛護会は当初15、6人からのスタートでしたが、20周年を迎えた2023年の登録メンバーは50名にも上ります。この地域に暮らしている上原さんは、長い海外勤務を終えた定年後、地域で何かボランティアをやりたいと思い、10年ほど前から愛護会の活動に参加し始めました。メンバーの平均年齢を聞くと、なんと78歳。「自然が好きだから」、「地域で何かやってみたい」、「友だちに誘われて」と参加がだんだんと増え、「森に来ると若返るんだよ」と3日に1度、森に通うメンバーもいるほど、活動は広がりを見せています。

愛護会のHPでは、20年に渡る活動記録や四季折々の風景を収めた写真を見ることができ、充実した情報の更新はメンバーが行っているそうです。また、見せてもらった活動計画書には、森の維持管理の作業からメンバー同士の親睦を深める茶話会や研修旅行まで、年間計画が緻密に組み立てられていて、丁寧に、そして楽しく取り組めるような工夫が伝わってきました。

ざわめく心がすっと落ち着く「たけのこの道」

「雨後の筍」のことわざの通り、竹林では春になると筍が次々と芽を出し、手入れをしないとどんどん成長してしまいます。上原さんの案内で訪れた竹林でも定期的な間伐を行っていて、2023年春には300本もの筍が採れ、近隣に配るほどの大収穫だったそうです。さわさわと揺れる笹の音を聞きながら目を閉じると、今住宅街にいることを忘れて非日常の世界にいる感覚になり、ざわめく心がすっと落ち着く素敵な場所です。

特別に竹林の中に入れていただきました

竹林のふもとにある農園広場には炭焼き小屋があります。この日は、ちょうど火を入れて、間伐した竹から竹炭をつくっているところでした。窯の温度が高くなりすぎると竹が灰になってしまうため、蒸し焼きにする火加減が難しいそう。炭焼きで出た煙を冷やしてつくった竹酢液も見せてもらいました。独特の薫香に驚きつつも、土壌改良や虫の忌避作用がある竹酢液は地域のバザーで販売すると完売してしまうほどの人気だそうです。炭焼きの魅力を生き生きと語ってくださるメンバーから、活動を心から楽しんでいることが伝わってきました。

竹炭や竹酢液の作り方や、プロパンガスによる排煙の無煙化、無臭化の工夫も教えてもらいました

外来種の襲来 筍をかじるタイワンリス

さらに歩みを進めていくと、道の脇に、大人の背丈ほどの萎れた竹を見つけました。「竹の先端が腐っているのは、リスのしわざ。筍が芽を出した途端、かじって食べてしまい、そのまま上に伸びたものの、萎れてだめになってしまったんだよ」と教えてくれました。

近年、神奈川県でも外来種のタイワンリスによる被害がニュースになり、住宅街にある公園でも時々、木の実を食べるリスをみかけるようになりました。上原さん自身は、竹細工授業を受け入れた西金沢学園で「読みきかせボランティア」もされています。読み聞かせでは、地球温暖化や外来種をテーマにした本や新聞記事を選んで話をしているとのこと。「子どもたちはまだ難しいことは分からなくても、きっと何か感じるものがあると思う」と話し、自分が持っているものを地域に、子どもたちに還元したいという熱い想いが伝わってきます。

タイワンリスに食べられてしまった竹。子どもの力でも簡単に折れてしまうほど、しなしなに枯れてしまっていました

採って食べるよりも、昆虫を増やしたい

竹林を後にして向かった先は果樹園。みかん、レモン、柚子、柿、栗などさまざまな果樹が実をたわわにつけるなか、足元の草刈り作業がもくもくと行われていました。「果樹園をやっているのは、食べるためではなく、森に来る昆虫を増やしたいから。採って食べるより、かっこいいじゃないですか」と少し照れた声で話す上原さんから、果樹園の目的を聞き、実は採って食べるものと思っていた自分が少し恥ずかしくなりました。果樹に消毒は施さず、草刈りなど地道な努力の甲斐もあって、以前よりたくさんのミツバチや蝶などの昆虫が集まってくるようになったそうです。

スズメバチやアシナガバチに刺されないよう注意しながらの草刈り。取材終わりにいただいた柿はとても甘く、みかんは甘酸っぱくて自然の恵みのありがたさを感じました

飛翔するヘイケボタルの数は3倍に

ホタルは今、どうなっているんだろうと思って尋ねると、孵化して幼虫となり大きく育っているところでそっと見守る時期だそう。一般の人が入らないよう入口が閉鎖されていました。愛護会では、森にホタルを復活させたいと、釜利谷南小学校との協力で2003年からホタル育成に取り組み、今では年間200頭ものホタルが姿をみせてくれるようになりました。餌のカワニナが自生できるかまだ不安が残るため、近隣の水路から捕ってホタルが棲む水辺に撒いていて、ホタルの見守りと育成は続きます。

成虫となって飛翔する6~7月、土日の夜にはメンバーが交代で、ホタルを見に来る人たちが水路に落ちたりケガをしたりしないよう安全注意の見守りを行っています。毎年、飛翔数の調査も進め、2023年は2012年比で3倍以上となり、ホタルは年々増え続けていることが分かりました。近隣小学校や環境の専門家、地域住民の協力を得て関ヶ谷市民の森が横浜一と言われるほどのホタル飛翔地となった軌跡は、会ホームページに掲載されている記録を読むだけでも、そこにどれほどの熱意と地道な活動があったのか容易に想像できます。

ヘイケボタルが生息する水辺「ほたるの里」
(提供:関ヶ谷市民の森愛護会)  
毎年200頭ものホタルが幻想的な飛翔を見せてくれます

取材を終えて

関ヶ谷市民の森を歩いてみると、どこも丁寧に手入れがされている様子が見てとれます。住宅街のなかで豊かな自然にふれることができる場所があるということは、数字では図ることができない地域の宝だと思いました。

「この森には宝物がいっぱいあるから、さがしなさい。共通したものはないんだ。自分だけの宝物を探してごらん。」

この言葉は、上原さんが以前、子どもたちの自然体験を受け入れた時に語った一言です。その言葉は、好きなものは一人ひとり違うから、まわりに合わせるのではなく、自分が感じることが大切だよ、というメッセージに聞こえました。忙しい日々のなか、誰もが目の前のことに必死になって視野が狭くなってしまいがちですが、鳥の声や木の葉が揺れる音で満たされた関ヶ谷市民の森は、子どもも大人も、自分の内側にあるものを感じたり、再確認したり、時には大切にしていた何かを取り戻す場所でもあるのかもしれません。

取材の際に愛護会の皆さんとお話したところ、実は同級生のお母さんだったり、自分が通っていたスイミングスクールの元コーチだったりと、地域のつながりを感じる出会いもありました。愛護会の皆さん一人ひとりの存在や20年に渡る継続した活動が、私たちの見えないところで、自然豊かな暮らしを支えてもらっているのだなと改めて感じ、感謝の気持ちを抱いて取材を終えました。

取材の帰路に、ぷっくり太ったカナヘビを発見。生き物を見つけて心躍る気持ちになれるのも、自然を残したいと願って行動している地域の人たちの力があるから。今度は冬の関ヶ谷市民の森を訪れて、私も自分だけの宝物を見つけたいと思います。

写真・文=廣瀬夕紀

Information

関ヶ谷市民の森 愛護会

横浜市金沢区釜利谷西2丁目10番地

https://sekigaya.jp/index.html

移り変わる四季折々の森の風景や、20年に渡る会の活動記録を見ることができます。