子どもたちと地域がつながる、音楽好きが集まる場

キンコンカンコーン…小学校の2時間目の授業が終わり、中休みが始まる鐘が鳴り響きました。教室から出てくる子どもたちが早足で向かう先は音楽室。今日は月に1度の「小さな音楽会」があります。今回はリコーダーのアンサンブル、どんな曲が聴けるのかワクワクした表情の子どもたちが音楽室に次々と入って来ました。

教室では地域で活動しているリコーダークラブ「あいあい音楽部」の女性6人が、ピタゴラスイッチの軽快な挿入曲『今日のトピック』をさっそく演奏しています。子どもたちが集まるまでの間の粋な計らいですね。どの場所から聴こうか少し迷いながら、子どもたちは音楽室の床に肩を寄せ合って自由に座っていきます。

いよいよ久米さんの司会から始まり生演奏がスタート。『ピタゴラスイッチオープニングテーマ』、『きらきら星』、『ジュピター』、『風の丘(魔女の宅急便より)』、音色の違う6種類のリコーダーアンサンブルは、授業で練習しているリコーダーとはまた違う響きがあり、子どもたちは目を輝かせて聴き入っていました。曲の合間には楽器紹介も(冒頭の写真参照)。それぞれの楽器の大きさや形、音色の違いを「あいあい音楽部」のメンバーが説明していると、子どもたちが前のめりで聴いている姿が印象的でした。

座っている子どもたちの後ろには、先生方や保護者、地域の方も聴きに来ています。時には高齢者サークルの方々も立ち寄るそう。小学校の休み時間の音楽室は、子どもたちと地域がつながる音楽好きが集まる場となっていました。

リコーダークラブ「あいあい音楽部」と自主的に聴きに来た子どもたち(2023年9月公演)

子どもらしい顔にビビっときた

釜利谷小学校の「小さな音楽会」は今年で11年目。このリコーダーアンサンブルで第74回目になります。

――始めたきっかけを教えてください。

久米さん:すでに「小さな音楽会」をやっていた能見台南小学校に、お手伝いをしに行ったことがあったんですよね。その時、子どもたちが曲を聴いている様子にビビっときました。音楽の授業とは違って、演奏を間近で聴いている子どもたちはイキイキとしていたんです。授業で頑張っている顔ではなくて、キラキラした子どもらしい素の顔なんですよ。これはいい!と思い、さっそく自分の子どもが在籍している小学校に提案したのが始まりです。

堀尾さん:第1回はピアノとフルートのアンサンブルで、150人以上の児童が集まりました。土曜参観の日に横浜金沢交響楽団をお呼びして体育館で全校で観賞したり、プロのミュージシャンMaoさんが来てドラえもんや校歌を歌ってもらったりしたこともありましたよ。

当初の予定ではリコーダーアンサンブルの取材だけでしたが、それだけではもったいない!と思った私は、何度か「小さな音楽会」にお邪魔してきました。その様子をちょっと覗いてみましょう。

弦楽四重奏団「ドルチェ」のメンバーと司会の久米さん(2023年11月公演)
演奏の合間に楽器紹介、バイオリンとビオラの大きさを比較しています
堀尾さんも演奏に参加した打楽器もりだくさん」、おなじみの打楽器がたくさんありますね(2023年12月公演)
沖縄三線」、合いの手も盛り上がります「イーヤーサーサー!」(2024年1月公演)
木管五重奏「レ・ヴァン・ハマンセ」、左からフルート、クラリネット、ファゴット、カホン、ホルン、オーボエ、実は私は中学・高校時代に吹奏楽部に所属していました。この響き懐かしいなー!(2024年2月公演)

――演者さんはどのように見つけてくるのですか?

堀尾さん:私は地域の吹奏楽団で、久米さんは地域のオーケストラ(横浜金沢交響楽団)で音楽活動をしているので、そこからのつながりも多いですね。他のスタッフは、地域の公園で楽器の練習をしていた方に勇気を出して声をかけてみたら出演につながった、なんてこともありました。私もネット検索で見つけたある楽器の体験クラスを見学させてもらったら、とても素敵な先生だったのでドキドキしながら最後に出演依頼をしてみた、なんてエピソードもあります。楽器を演奏できる学校の先生が出演してくださったこともありましたよ。

――この11年間で変わったことはありますか?

久米さん:うーん、変わったと感じることは特にないですね。世の中の親子を見ていると何か変わってきていることを感じますが、この小さな音楽会に来てくれる子どもたちを見ていると、子どもの本質は変わっていないと思います。子どもたちが楽しく聴きに来てくれて、楽器や曲のことをよく質問してくれることは前から変わらないです。むしろ「変わらないでいられる場」になっているのかもしれませんね。

休み時間から授業内公演や他校への広がり

――音楽の授業でも公演されていると聞いたのですが!?

堀尾さん:毎回たくさんの児童が聴きに来てくれていたので、何度か開催しているうちに「授業で公演するのはどうですか?」と学校から嬉しい提案がありました。中休みとほぼ同じ公演を、2時間目の音楽の授業で学年を決めて取り入れてもらっています。例えば今回のリコーダーアンサンブルは、3年生を対象に授業内公演をしました。授業の場合は音楽にあまり興味がないお子さんにも聴いてもらえるので、少しでも楽しい経験になるといいなと思います。

――他の小学校でも開催されているのですか?

久米さん:現在「小さな音楽会」を開催している小学校は、能見台南小、釜利谷小、西金沢学園小学部、そして最近、西富岡小でも始まりました。学校と保護者・地域がつながって、子どもたちのためにこの会が広がっていると思うと嬉しいですね。昔は地域のつながりづくりは先生方がやっていることもありましたが、今はしがらみが多かったり、先生のお仕事自体が忙しかったりして難しいのだと思います。少年サッカーや少年野球のように、地域で身近に音楽に関われるきっかけを作りたいですね。子どもたちに音楽やいろいろな楽器に興味をもってもらえる場になれば嬉しいです。

毎回発行している「小さな音楽会だより」、裏面には聴きに来た子どもたちの感想がびっしり

子どもたちを助け合って育てていく地域を目指して

久米さんと堀尾さんはお子さんが釜利谷小学校に在籍しているときにPTA会長として、卒業した今は学校・地域コーディネータ―として活躍されています。

――これから目指していきたいことを教えてください。

久米さん:子どもたちが素のままで楽しめる居場所を提供し続けることですね。授業では見せない子どもたちの表情を引き出せる場を作り続けていきたいと思っています。PTAや学校・地域コーディネータ―の活動をしていると、子どもは親だけではなく地域の人も協力して多面的に育てていく必要があると感じます。自分の子どもだけでなく周りの子どもたちも含めた子育てが大事、助け合って育てていくのが理想です。そういう町や地域を目指していきたいと思っています。AIも便利ですが、やっぱり人の関わりが大事ですよね。その関わりの一環として学校・地域コーディネータ―としていくつか活動する中の一つに「小さな音楽会」があります。

堀尾さん:地域のつながりや世代を超えたつながりを大事にしていきたいですね。妄想ですが中学校の吹奏楽部を小学校へ派遣したり、音楽会が不登校生の居場所になったり、小さな音楽会の卒業生が釜利谷小に戻ってきて演奏なんていうのも面白いかな。いろいろ想像したり実際に企画したり、時には一緒に演奏したりして、私自身がとても楽しく活動させてもらっています。

いつもにこやかな学校・地域コーディネータ―の久米さんと堀尾さん(左から)

音楽室の生演奏が始まる頃に窓の外にも耳を傾けていると、運動場から元気に遊ぶ子どもたちの声が聞こえてきました。教室には読書をしたり、絵を描いたりして楽しんでいる子どもたちもいることでしょう。そしてこの音楽室には音楽が好きな子どもたちが集まってきています。そうやってそれぞれが中休みを楽しみ、興味関心を伸ばせる休み時間がある小学校。なんだかワクワクしてきたのは私だけでしょうか。

学校の音楽室から見た風景、演奏の音色が窓の外へ響いていきます

写真・文=杉原智子

Information

横浜市立 釜利谷小学校
住所:横浜市金沢区釜利谷東6-37-1
電話:045-781-2468
https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/kamariya/