金沢子ども食堂すくすくとは

子どもたちの笑い声と足音が響き渡る部屋の中、コの字型に配置された机の上にはたくさんのお米に野菜、多種多様な食品が並べられています。食品の列のそばには「一家族3個」という張り紙。食品を選びながらバッグに詰めるお母さんたちと、それを手助けするスタッフ。少し離れた机では、大学生のお姉さんの膝の上で、幼児が紙にマジックでぐりぐりと何かを書き込んでいます。

ここは「金沢子ども食堂すくすく」。月に2回のペースで、主にひとり親家庭を対象に、食品や生活用品の無償提供を行うとともに、みんながホッとできる居場所づくり、育児相談や生活相談、子どもたちを対象としたレクリエーション活動や学習支援にも取り組んでいる子ども食堂です。子ども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂のことで、その多くが民間発の自主的・自発的な取り組みであることが特徴です。「すくすく」では、新型コロナ感染対策の観点から食事の提供を一時休止しており、現在は食料支援を中心とした活動を展開しています。

私は1年ほど前に仕事をきっかけに子ども食堂の存在を知り、関心を持ったことから、「すくすく」でのボランティア活動に継続的に参加しています。活動に参加する中で、「すくすく」の活動について理解を深めたいという気持ちと、より多くの人々に知ってもらいたいという気持ちが芽生え、代表の加々美マリ子さんにインタビューを行いました。

「恩送り」の実践の場として

加々美さんは3人のお子さんをお持ちのお母さんです。お子さんたちは皆成人されて、今ではそれぞれがご家庭をお持ちとのことですが、「すくすく」誕生のきっかけは加々美さん自身の子育てと関連が深いようです。

「子どもが中学生の頃に不登校になってしまい、家庭が荒れていた時に、並木ケアプラザで開催されていたフリースペースに子どもたちを連れて参加しました。様々な年齢の子どもたちと混ざって遊んだり、みんなで一緒に食事をとったり、スタッフの方に相談に乗ってもらったりしながら過ごす中で、子どもたちも私も心を落ち着かせることができました」。自身が「地域の居場所」に救われた経験をゆっくりと言葉を選びながら話す加々美さん。子どもたちが成長し、自立していく中で、今度は自分が自身と同じような境遇にあり、手助けを必要としている親子のためにサポートをしたいという気持ちが芽生えていったそうです。

笑顔の加々美さんの写真
マスクの上からでも伝わる加々美さんの笑顔

「フリースペースのスタッフの方々に直接の恩返しはできていませんが、元気になった自分が今度は手助けを必要としている人々を支えることで、結果的に『恩送り』を実現することができるのではないかと考えました」。もらった善意をまた別の助けを必要とする人のもとへ届けることを「恩送り」と表現する加々美さん。その実践の場として、いよいよ「金沢子ども食堂すくすく」が誕生します。

自らの思いや志を持つ担い手たち

加々美さんが手助けを必要とする親子をサポートするうえで、子ども食堂という形を選択したのは、「(今思い返すと甘い考えだったと感じるけれど)会場と料理が得意な人を揃えることができれば実施できるものであり、自分でも挑戦できるのではないか」と考えたからだそうです。横須賀で子ども食堂を営んでいた知人から会場の紹介を受け、お子さんがかつて通っていた幼稚園の先生や以前から親子ぐるみで関わりのあったお母さんの協力を得て、2017年3月に第1回の「金沢子ども食堂すくすく」が開催されました。

すくすくの目印になるのれん
活動拠点の目印となる「のれん」

活動はすぐに地域の人々からの注目を集め、同年5月にはタウンニュースの取材を受けることとなりました。この記事は活動内容を紹介するもので、スタッフ募集の呼びかけを行ったわけではありませんでしたが、記事を読んで自分も何かしたいと感じた地域の女性たちが、次々と協力を申し出てくれたそうです。この時に集まった人々が、4年後の現在でも中心メンバーとして「すくすく」の運営に携わっています。自らの思いや志を持つ人々が自発的に集ってつくり上げた「すくすく」だからこそ、持続的な活動として発展することができているのではないかと感じました。

大きな家族を目指して

「すくすく」をどのような場にしたいと考えているのかという質問に対して、「子どもたちの『生きる力』を育む大きな家族」と答えた加々美さん。

「自身が子どもの頃には、地域の大人たちが協力して子どもたちを見守り育てることが当たり前の光景としてあり、その中で子どもたちは様々な大人たちとコミュニケーションを取り、多様な人々の集団としての社会の中で生きる術を身に着けることができていたように思う」と、遠くを見つめながらお話しされていたのが印象的でした。そういった時代を生きてきたからこそ、現在の子どもたちを取り巻く環境に課題を感じている部分もあるようです。

「現在は核家族化やひとり親世帯の増加が進む中で、子どもが親以外の大人と触れ合う機会が減少しているように感じられます。すくすくでは、社会には多様な世代の人々、様々な価値観の持ち主がいることを子どもたちが知る機会を提供して、多様な価値観に対して寛容で柔軟に対応することができる大人に成長してもらえるよう、多世代でのコミュニケーションを重視しています」。

たしかに活動に参加していると、「すくすく」では、赤ちゃんからお年寄りまで多世代の人々が話をしたり、一緒になって遊んだりする様子が見られます。ただし、スタッフの多くは子育てを終えたお母さん世代が中心で、若い世代の取り込みはつい最近まで実現できていなかったようです。私自身も現在24歳の若手メンバーに含まれますが、2021年に入ってから、20代の社会人や大学生の参加が急速に進み、子どもたちの「お兄さん」、「お姉さん」として定着し始めているようです。

すくすくに参加している20代の社会人や大学生の写真
10代、20代の若い世代の参加が進む

「『お兄さん』や『お姉さん』が参加してくれるようになってから、子どもたちの表情が以前よりも明るくなったと感じています。やっぱり、年齢が近い世代だからこそ心を通い合わせることができる部分もあるのだと思います」と加々美さんも嬉しそうに話します。一般に「多世代交流」というと、どうしても最年少の子どもと最年長のお年寄りばかりに意識が向かいがちなようにも思えますが、その中間に位置する若い世代だからこそ子ども食堂で担うことができる役割があり、また、若者自身もその場を自分の「居場所」とすることもできるのではないかと感じました。

広がりゆく協力の輪

新型コロナウイルス感染症の拡大下において、関係者全員の安全を確保することを何よりも優先すべきと考え、一緒に食事の準備をして皆で食べることを中断している「すくすく」。一方で、食品を寄付してくれる生産者さんとオンライン会議を通してつながり、子どもたちに食べ物がどのようにして作られ、自分たちの元まで届けられるのかをレクチャーしてもらうイベントを開催する等、柔軟に活動の幅を広げています。

「ご寄付いただく食品や物資は、『人と人とをつなぐツール』であると考えています。ご寄付をきっかけとして、支援者の方々とのつながりが生まれ、子どもたちの経験や将来の選択肢を増やしていくことができることに喜びを感じています。一緒に子どもたちを支える『協力の輪』を広げていってくださる方々とのつながりを長期的に大切にしていきたいと思います」。

寄付された野菜の写真
生産者、寄付者、スタッフ、参加者と、食品が人と人とをつなぐ

また、「協力の輪」は「すくすく」の内側からも広がりを見せているようです。以前は参加者として食事や物資の提供を受けていた方々の中から、今度は自分が支える側に回りたいとスタッフとしての協力を申し出てくれる方が増えてきているのだといいます。加々美さんが始められた「恩送り」の実践は、着実に次世代へと受け継がれているようです。

一方で、現在の月に2回のペースで公共施設をレンタルして開催する形では、支えられる人の数が限られていることに課題を感じており、「自分たちの拠点となる施設」を設けることを長期的な目標として掲げているそうです。

「自分たちの施設を持つことができれば、日程を分散して開催することで、スタッフの負担を軽減しながらも、より多くの人々に必要とするサポートを届けることができると思います。また、家庭や学校に居心地の悪さを感じている中高生を中心とした子どもたちがいつでも逃げ込める場として、常設の居場所を用意しておきたいと考えています」と力強いお言葉をいただきました。

取材を終えて

加々美さんの「恩送り」の実践として始まり、それに共鳴する人々の善意の連鎖によって協力の輪を拡大してきた「金沢子ども食堂すくすく」。私自身もその担い手の一人として、今後も継続して活動に参加するとともに、一緒にこの活動を支えてくれる仲間探しを進めていきたいと考えています。この記事が、一人でも多くの、今まさにサポートを必要としている人や、今後共に活動を支えてくれる人のもとに届くことを願っています。

写真・文=渡邉 武瑠

金沢子ども食堂すくすく
kanazawa.sukusuku@gmail.com
横浜市金沢区泥亀1-21-5いきいきセンター金沢 2階
https://sukusuku.amebaownd.com/

この記事は、取材の仕方や文章の書き方、写真撮影のコツを学ぶ「金沢区の魅力発見・発信講座」の受講者が、区民目線で実際に取材・執筆したものです。