季節の移り変わりを楽しみ、心の豊かさを与えてくれる存在

インタビューした日は12月26日。昨日までのクリスマスの余韻を残すように玄関にはクリスマスリースが飾られていました。改修されたガラス扉の玄関扉ととてもお似合いで、クリスマスのほっこりとした雰囲気が玄関に面する通りへも広がるようでした。

玄関のドアを開けると、ここで暮らす大学院1年生の飯濱さんがベンチ付きの手作りの棚に腰掛けて革靴を磨いていました。その奥のリビングで手を振って迎えてくれたのは大学院2年生の荒川さん。まるで友人のお宅へ招かれたかのように筆者を迎え入れてくれました。

「こずみのANNEX」の1階は地域のみなさんが気軽に立ち寄ることができる場として、ときより開放されています。おしゃべりをしたり、子どもたちが遊んだり、時にはワークショップや、自習室としてもみなさんに利用されています。リビングの中心に置かれたダイニングテーブルに腰をかけると、どこか心が落ち着き、会話も弾むのです。

「カナスタ」でこずみのANNEXに関わる人のインタビューは今回で3回目。こずみのANNEXは「学生シェアハウス」と「だれでも利用できる町へひらく場」として、大家さんの平野さんがお持ちの建物を改修してつくられました。カナスタでご紹介した1回目のインタビューは、小泉の町で三代にわたって暮らし続けるこずみのANNEXの大家さんの平野芳範さん、平野健太郎さん親子です。終戦後の貧しい時代を近所のみんなで乗り越えてこられた平野芳範さんのお父様の英蔵さんのお話や、2019年3月にオープンしたコンセプトアパートメント「八景市場」の誕生秘話に加えて「こずみのANNEX」で暮らす学生たちへの思いもお話くださいました。

2回目はこずみのANNEXのリノベーションを手掛けた藤原酒谷設計事務所の藤原真名美さん。こずみのANNEXの改修や学生との活動などについてお伺いしました。3回目の今回は、こずみのANNEXで暮らす7人目の住民、荒川さんと飯濱さんにインタビュー。実はお二人ともに、こずみのANNEXの建物の改修の設計、工事に携わってきました。その経験の上で、自分たちが設計を手がけた建物で暮らしています。

こずみのANNEXは、2020年から入居が始まり、これまでに建築を学ぶ5人の学生が暮らしてきました。ここで暮らした彼らにとって、地域の方々とともにすごした時間は、大切な経験であったと思います。荒川さんと飯濱さんも、建築を学びながらこずみのANNEXで暮らしています。荒川さんはワークショップなどみんなが楽しむ場で導かれる人と人とのつながりや行動、その空間の形態について、飯濱さんは行動にもとづいて見える場やその変化の面白さなどを各々研究されています。そんなお二人にこずみのANNEXで過ごす学生生活について伺ってみました。

「こどもたちがここでよく遊んでいますよ」「畑を手伝ってもらいましたよ。ずっとゲームをしてるので、ゲームは一端お休み!!みんなで畑をつくるぞー!ってみんなに声をかけて庭づくりしました」と、飯濱さん。飯濱さんと荒川さんはここに集う子どもたちや地域のみなさんにとって、お兄さんお姉さんのような存在とその様子を伺い知りました。

そんな楽しい日常をあれこれおしゃべりしていと・・・。
「ガタガタ・・・コトッ」玄関から物音がしました。「なんだろう……?」と、玄関を見てみると…大家さんの平野芳範さんが脚立を抱えてやってきて、作業をされていました。様子を見に行ってみると、平野さんが玄関のクリスマスリースをお正月飾りへと付け替えていました。その姿は、プレゼントを届けるサンタクロースのよう。平野さんの小さな施しの積み重なりが、ここで暮らす学生たちをそっと支えています。

学び、実践し、実際に暮らしてみる

荒川さんはこずみのANNEXで暮らす前は、セキュリティの設備が整ったアパートに下宿していました。でも「あいさつをする相手もいなくて、ちょっとさみしかったです」と話します。こずみのANNEXは、ともに暮らすメンバーや、ご近所のみなさん、大家さんなど、たくさんの方と暮らしているようで、楽しく、安心な毎日なのだそうです。荒川さんは町内会のみなさんからも親しまれ、夏休みのラジオ体操では「見本をやって!」と頼まれることも。「私、ラジオ体操第二知らないですよ」と言っても、「いいからいいから」と。学生の活躍を喜ぶ街のみなさんの笑顔が目に浮かびます。

荒川さんはこずみのANNEXの建物の解体や住民のみなさんとのワークショップなどもお手伝いをしています。これまでの経緯を体験した上で実際に暮らすことについて、「建築の計画を手がけ、実際の工事を経験して、その建物で実際に暮らすことができるのは貴重な経験です」と話します。建築を学ぶ学生として実施設計や工事をも体験し、さらに実際にその建物に居住できることは大変稀少な経験で、大きな学びでもあったのではと思われます。飯濱さんも同様にこずみのANNEXの計画やワークショップ、実施設計、実際の工事にいたるまで一貫して経験してきました。その経験の上にある今のここでの暮らしについて「実物大の模型のなかにいるような感覚です。図面や模型を作る感覚とは大きく異なって、ものごとを実際につくり、さらにその空間の実寸を体験できたことはこれからの建築の活動にも大きな糧になると思っています」と話します。

飯濱さんは高校時代、寮で暮らしていました。一人ずつの部屋が与えられ、食事の時間にみんなで集まる毎日だったそうです。こずみのANEEXは高校時代の寮とは大違いで、開放日には子どもも大人もたくさんの人が集まります。時には子どもがふざけて飯濵さんの部屋のドアを勝手に開け、「ドアはノックしてから入るんだよ」と教えてあげるなんてこともあるそうです。子どもたちにとって飯濱さんはお兄さんのよう。飯濱さんも「ここにくる子どもたちはかわいい弟のようです」と話します。

「こずみのANNEXの最初の住民の関さんと遊んでいた子どもたちは、もう中学生になりました。今はこずみのANNEXで仲間と一緒に勉強しています」と、自身の先輩からここに来る子どもやその仲間たちを継ぎ、日々たくましくなる子どもたちをそっと支えています。先輩から後輩へ、中学生から小学生へ、そして大家さんから大学生へ、おやじの代からせがれへ、こずみのANNEXにはこの街をあたたかくそっと継いでいくやさしい流れがあるかもしれません。

終わりに

こずみのANNEXの運営委員は、地元の方の他、移住された方など、出身も職業もさまざまな方々が集まり、そのメンバーと話せるのも魅力です。筆者も運営委員の仲間へさっそく入れていただきました。運営委員という仲間を通じても、金沢区での日々が豊かに広がることと思います。

金沢区には、手に届く自然な楽しいつながりがあります。シェアハウスの学生、成長し大人になる子どもたちと、金沢区から多くの方々が日々巣立っていきます。そして広い世界で経験を得て、再び金沢区の地で活躍する先輩方も多くいます。これからも子どもたち、地域のみなさんのつながりと成長が楽しみです。

写真・文=中川ちあき

Information

こずみのANNEX

https://www.kozumino-annex.org