金沢区は福祉を当たり前に受け入れてくれる、とても温かい場所

上原さんにはダウン症の息子さんがいます。何の問題もなく学校を卒業した息子さんは、20歳の時ひきこもりになってしまいました。原因はいまもわからないままですが、その時に手を差し伸べ、外へ連れ出してくれたのが、同じ金沢区にある社会福祉法人すみなす会でした。その経験から、今度は私が社会に恩返しをする番!と、幼稚園教諭をしていた上原さんは「のあのあ」を立ち上げる決意をしました。

「のあのあ」という名前は、上原さんの愛犬が「のあ」ちゃんという名前であること、タヒチ語で「のあのあ」=「いい香り」だったことから、とてもぴったりだと付けられました。犬や動物には、私たちの心に安らぎと癒しを与えてくれる不思議な力があります。ドッグカフェ「のあのあ」の開所には、やるのであれば犬と一緒に…という上原さんの強い信念が込められています。

当初は金沢区近隣の場所も色々探していましたが、不動産屋さんに「周りから嫌がられる動物と福祉の両方はやめておいた方がいい」と言われ、上原さんはその言葉にとても驚きました。金沢区には福祉が根付いていて、「のあのあ」の開所を当たり前のように受け入れてもらえたそうです。今でもお隣のお寿司屋さんをはじめとして、近隣の方々に温かく見守っていただいていると言います。

「のあのあ」施設長上原さん
「のあのあ」施設長の上原さん。とても明るくスタッフへも気さくに声をかけ、「陽子さん」とみんなから親しまれています

好きこそものの上手なれ

「のあのあ」での仕事内容は、お弁当の製造・販売、フェルティドッグ作り、切手貼りやパスタ詰めなどの受注作業、ドッグカフェ運営(現在はコロナのため休業中)など様々です。これには上原さんの、「自分の得意とすることを頑張れる場所をつくりたい」という思いがあります。

「人間誰でも得意不得意があります。それは健常者も障がい者も同じ。私たちが当たり前に学ぶ場所、働く場所を選択する権利があるように、障がい者にも選択権があります」と上原さんは話します。

手貼りに集中する利用者の写真
細かい切手貼りに集中する姿を見て、こちらも息をするのを忘れてしまいそうに・・・

取材当日、のあのあでは利用者さんが集中して細かい作業に取り組んでいました。突然現れた私に、優しく仕事内容の説明をしてくれる利用者さん。その空間はとてもキラキラと輝いていました。

夢は障がいのある子を持つお父さんお母さんに「のあのあ」でゆっくりとフルコースを食べてもうこと!

「のあのあ」にはシェフが腕を振るう自慢の給食があります。障がいのある子の中には朝晩まともにご飯を食べていない子もいるので、せめてお昼だけでもバランスの取れた温かいご飯を食べて帰ってほしいという思いからです。

上原さんは嬉しそうに密かな夢を教えてくれました。「障がいを持つ子の親はついつい自分のことは後回しになって、温かいご飯をゆっくり食べられるなんて私たちにとってはとても贅沢で貴重なこと。私は結婚記念日だってろくにお祝いしたこともありません。そんなご両親にここへ来てもらって、ゆっくりシェフの美味しいフルコースを食べてほしい。『のあのあ』を、どこにも行けない人たちが安心できる場所にしていきたい」。上原さん自身が当事者だからこその目線で、とても温かい場所だなと感じました。

給食チリソース炒めの写真
自慢の給食。この日のメニューは鶏のチリソース炒め。本当に美味しかった!

「のあのあ」は2021年2月1日にドッグラン併設のドッグカフェとしてリニューアルオープンする予定でしたが、コロナの影響で延期になっています。2022年1月11日に完全予約制でオープンする予定です。1階のショップでは可愛らしいフェルティドッグが販売されていますので、ぜひお店の前を通られた時は覗いてみてください。

フェルティードックの写真
ショップで販売されているフェルティードック。愛犬のオーダーメイド注文も人気なんだそう
ドッグカフェのあちゃん、麟太郎君、龍之介君
右から「のあのあ」ののあちゃん、麟太郎君、龍之介君

写真・文=栗田 明子

NPO法人いーぷらす「のあのあ」
横浜市釜利谷東6−1−18新田ビル2・3階
TEL 045-512-6407
https://noah-noah-2016.com/

この記事は、取材の仕方や文章の書き方、写真撮影のコツを学ぶ「金沢区の魅力発見・発信講座」の受講者が、区民目線で実際に取材・執筆したものです。